2009年09月03日

手記――9月2日

悠々とその風景を見下ろせば、そこは人の消えた街であった。
所々に点在する炎は敵兵士の篝火であり、暖を取る為の薪でもある。
敵のど真ん中まで単身で半日掛けてたどり着き、更に二日程経ったのを太陽の沈み具合で判断した。
クロは相棒とも言える大きな対物狙撃銃のスコープから視線を外し、大きく息を吐いて緊張を解いた。
いつ始まるかも解らない重要な取引にクロも参加するのだ。おちおち寝ている隙も、視線を逸らす隙も残されてはいない。
取引――それは、今俺達の戦っている相手の総大将とも言える人物が此処にやって来る。そして、誰かと面会を果たすというものだ。
この情報は信頼できるものではないと思っていたが、日に日に増える敵兵士にこの情報は正しいものだと確信を持ち始める。
この狙撃で敵の大将を殺せば、敵全体の士気の低下に繋がり、戦線の悪化から講話に持ち込める。幹部会でそう結論が弾き出された重要な任務は幹部であるクロ自身が赴いた。
つまり、クロ自身の手で戦争を終わらせるということだ。


夜、クロは短い短い夢を見た。
最近行ったルビーの家が舞台だった。
どうやらルビーと一緒に暮らしているらしい。結婚でもしたのだろうか。
ともかく楽しい夢だった。
実現すれば良いな――クロは目が覚めたとき、そう呟いた。
posted by クロ at 12:41| 千葉 ☁| Comment(46) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年08月22日

クロのポケトピア・レコード11


「どうですか、彼の様子は」
薄暗い部屋の中で、何十とあるモニターを眺めつづける男に問う。
彼は1つのモニターに映る青年を眺め続けていた。
漆黒の服に身を包み、特徴的な長い前髪を揺らして走るクロという青年を。
「いいよ、凄く良い。テレビの取材を見た時から思ってたんだ」
……彼は、この計画にうってつけなんだ。



「いたか?」
「こっちには居ない。別の場所を探すんだ!」
そんなやり取りを彼らの真上から聞き耳を立てるクロ。
通風孔の中は盲点だったらしい。
息を殺してジッと堪えるのは見た目以上に難しい事だが、狙撃兵であるクロにとっては慣れたものだ。
「さて……」
遠ざかる足音を確認しても、通風孔からは下りない。下手に飛び降りると囲まれる可能性がある。
しばらくは此処に留まり、チャンスを伺う。
何もしていないのも退屈なので、懐からあの紙を取り出し、何かの計画とも見えるその計画書を眺めた。
「……、……」
オーレという場所から進出した組織の一部、ダーク団はその姿をくらませるように姿を消したらしい。詳しい事はわからないが、ルビーにでも聞けばすぐに解るだろう。
そして、ダーク団はポケモンの心を閉ざし、より強い戦闘マシンのようなダークポケモンを生み出そうとしている。
大方そんな事が書いてある書類を眺め終えると、クロは頃合いを見計らって通風孔から飛び降りた。
注意深く左右を見渡し誰も居ない事を確認し、廊下を歩く。
すると、見るからに怪しい扉。だが随分と厳重なロックが課せられている。
どうやら見ただけでも監視カメラ、それにリンクした自動機銃。稼動区域が広く、狙われたら走って逃げることは難しそうだ。
そして、恐らく指紋認証タイプの鍵。コイツをこじ開けるのは不可能に近い。
「さて、どうするかな……」
クロは呟いた。



『この建物か……』
見上げるほど高いビル、入口にも明かりが点っていない辺り凄く怪しい。
ルビーは身を強張らせた。この中にクロが閉じ込められている……。
『ルビー、何があるかわからないからな。もう少し様子を見よう』
「そうだな、キュリアス。中には何が待ち受けてるのかも解らないし……」
キュリアスに言われて、頷いた。
ルビー達はコールドやクロ達と違い、戦闘訓練を受けていない。あまり危険な中にほうり込ませたくない。クロならそう言うだろう。
だとしたら手段は1つだ。
『俺達が正面から突っ込んで敵の注意を引く。そうしたら裏口から一気に突っ込め』
『そんな作戦成功するのか……?』
『ならば、それ以外の方法を提示できるのか?』
「もう、やめてよコールドもキュリアスもっ;そんなお互いに睨み合う事しなくてもー;」
二人があまりにも恐い表情で睨み合っているので、仲裁に入るルビー。
それを聞いたコールドとキュリアスはすまなそうに視線を落とした。
それを見たルビーはもう一度暗いビルを見上げた。
ルビーも頭を回転させるが、突っ込むか様子を見るかの二択しか浮かばない。
そんなとき、目の前の門に手を掛けたスピネット。さっき試したが、電動式のためロックが掛かっているはずなのだが――
いとも簡単に開いた。
『門の下にパソコンを繋ぐポイントがみつかってさ。今中にウイルスをばらまいた。「ナイトバロン」は総てのデータを片っ端から無力化させるもんだ』
冷静な説明を終えても、まだポカンとしているルビーらを見て、スピネットはため息混じりに、
『今中は停電中で厄介な警報機も鳴らされない。行くのか行かないのかどっちだ?』
強い口調で言われたルビーは強く頷き。
「行く!行くよ!」



暗闇での戦闘で負ける気がしない。それが普段から夜戦用の服を身につけているクロだ。
カモフラージュの兵士服を脱ぎ捨てて暗闇を走る。
クロは停電が起こった辺りで仲間の存在に気付いていた。こんなことをするのはヤツらしか居ないと。
「ということは、だ」
普段はロックが掛かっている部屋も開く。
中に居たのは檻に入れられたポケモン達。
『おい、助けろよ!』
『早く帰らせてよぉ!』
『ここで殺したらただじゃおかねぇからなこらぁ!』
少し物騒な声も聞こえるが、その様子からしてダーク化はされていないようだった。
「わかった、落ち着け!おまえら番号知らないのか!?」
壁にある数字キーを睨んで言った。
すると檻の中の数匹が揃って叫んだ。
『33175600!』
やはりポケモンの声が聞こえると便利な事が多い。
それを入力すると、あっという間に檻が開く。
何十匹というポケモンが檻から出ると、出入口へと集結する。
「いいか、出口は上だ。皆で力を合わせるんだぞ?」
『あぁ、解ってる』
先頭を行くのはバンギラスらしい。彼が俺を見下ろして言った。
俺はそいつの硬い装甲で守られた腹を軽く小突く。バンギラスもニヤリと笑んだ。
「……行け!」
出口を開けた瞬間に殺到するポケモン。外で待ち構えてた兵士も纏めて吹っ飛ばされたり踏み付けられたりした。
最後のポケモンを見送ると、クロは周囲を注意深く見渡した。
そしてまた走り出す。
その後ろ姿を深紅の瞳が捕らえていた。
posted by クロ at 14:42| 千葉 ☁| Comment(2) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年08月13日

偽る

自らの手で壊したカムイのマフラー。
直さなくてはいけない、と思う。
半分程で切れたそれを縫ってはうまくいかないために糸を切ってしまう。
元々こういった作業は苦手で、いつもシロにばかり任せてきた。だからこうなってしまうと彼の存在は大きく思い出せた。
話が合わないわけではない。急に仲が悪くなったというわけでもない。ただ、お互いに意見の合わないような互いの嫌なところばかり目に見えてしまったからこのようになったのだろう。
一人で居る時間が多くなりますます時間が重く、傷を深くさせた。
「あ」
ぷつん、と糸が切れる。やり直しだ。
黒の糸は貴重なのに、もう少しでなくなりそうだ。
さくん、さくん、と針を通していく。
「……何やってるんだ、俺……」
湖で起きた口論。
カムイは俺を信じていると言った。だが、俺はその言葉を信じる事が出来なかった。
言葉を信じた、信じては裏切られた。
誰かは自分が思うほど、誰かは自分を想ってはくれない。
俺はずっとそう考えてきた。



純白の世界で、一通りの作業を進めるトール。主に力を使うより精神力を使うその作業を上手くこなしている辺り、トールは空間の支配者としての才能があるのかもしれない。
「よし、これで終わり……」
撫でるように目の前に浮かぶ風船のようなそれを、トールは鋭利な爪で突くと風景が入れ代わる。
それには世界の一部分が示されており、すなわちそれはクロらが生活をしている世界の1つ。
それを弄ったり、特殊な力で操作することにより世界をより安定させるのだ。
それが、今の彼の仕事だった。
「ふー……」
精神的にぐったりと疲れたのか、トールはその場に座り込む。世界を操るとは普通の存在にはなかなか出来ることではない。彼も1つの存在として当然ではあるが。
これで島と世界はクロを始めとする一部のものだけ隔離された。
「ま、少しはペナルティだよね。……いがみ合ってどうなる、って話だし」
トールは一つ呟くと、翼を広げてどこかへと飛び去った。



「ということだから、クロは霧を抜けても島に行けないよ」
「……、……勘弁してくれよ」
髪を掻いて呟くのはクロの癖。しかしその表情はやはり暗かった。
「だって仕方ないじゃん、あの言い草じゃカムイが可哀相だよ」
「……後悔はしていない。俺は誰の助けも受けん」
「いい加減にしろよ、クロ」
何か言いたげだったが、トールは無理矢理この会話を捩切る。
「自分の力があるからって、それが決して普通じゃ無いからって、言っても良いことと悪いことがあるだろう?」
「……、……」
「カムイが疑いながらお前と付き合うわけがない。なのに、クロがカムイを疑うなんて……正直、がっかりだよ」
視線をトールから逸らすクロ。
彼の言い分は的を射ていた。昨日の口論で悪いのは100%クロなだけあって、それを認めるのは辛い。
自分は何をしていたんだか。
「わかってる。……少し、頭を冷やすつもりだ」
「ん……それがいいよ」
こっくりと頷き、立ち上がるトール。
それを見上げたクロは、待ったをかけた。
「今夜から、少し……出店を任せた」
「うん、それは解ってる。あとライブもね」
「悪いな……、……あと、もうひとつ」
これ以上何があるのか。きょとんと首を傾げて見せると、クロは呟いた。
そのメッセージを伝えることを、トールは快く承諾したのだった。
posted by クロ at 19:00| 千葉 ☁| Comment(1) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年08月12日

星空の下で


ロフティーヌ王国の城。大体零時を回った頃だろうか。
王宮で飼われているパーンドレイクの群の中で一人、レフリは満天の星空を眺めていた。
見た目は齢10代後半程の美しい女だが、その着ている真っ白なローブを脱げば周囲に存在するパーンドレイク同様の緑色の一対の翼と腰からスラリと伸びる尻尾が存在している。
レフリの真の姿は、星を掴めそうなほどに巨大な竜である。
その竜と結婚した相手はキメイラと名乗るブラッキーの亜人であり、ごく最近まで謎の失踪を遂げていたが復帰した。
そのキメイラは残念ながら夜の仕事があるそうなので城には居ないが、それでも此処は住み心地が良かった。
竜なら何匹ものパーンドレイクが居るし、人の姿を取っても城の使用人達は優しく対応してくれた。
もっとも、使用人達はレフリやキメイラが城内を歩くと必ずと言っても良いほどに声を掛けて来るので少々嫌気がさして来た頃合いであるが。
それでも、此処の居心地が良いのは理由があった。

「すみません、レフリさん……少々雑務を押し付けられてしまって」

「遅い」

暗闇から姿を現したパーンドレイクを待ち侘びていたように睨み、喉を鳴らすレフリ。
そんな様子に少々臆したか、パーンドレイクは2、3歩後退りした。

「……、……ま、折角来てくれたんじゃ。ぬしよ、少し歩くかや」

「えぇ、そうしましょうか」

大股で歩き出すパーンドレイクを追い、小走りで彼の横へ。それに気づいたパーンドレイクは少し歩みを遅める。
彼は以前、レフリがキメイラと鬼ごっこをしていた時に無理矢理乗らされたのだ。
以来、退屈な時はこのパーンドレイクと話すことにしている。

「ぬしよ、そういえばあれから戦争の匂いはしなくなったが……もう終わったのかや?」

「はい。先日王と戦争相手国の王との間で終戦の締結がありましたから、もう戦いが起こることはありませんよ」

「ふむ、なるほどの」

くふふ、と鋭く尖ったナイフのような犬歯を見せて笑むレフリ。その表情は心から嬉しがってると同時に、もう戦いが起きないという安堵の入り混じった表情だ。
パーンドレイクは小さく喉を鳴らすと、そんなレフリを見下ろして歩みを止めた。

「あぁ、あまり遠くへ行ったら帰るのが遠くなるからの。すまぬ」

「え、あ、いや……気にせずに。いざとなったら自分の背に乗ってください」

「そうかや。ありがと」

本当はそんな理由でパーンドレイクが止まった訳ではない。レフリが一瞬見せた表情に思わず脚が止まっただけだ。
そんな思考を知ってか知らぬか、レフリは少し声のトーンを落として呟いた。

「……わっちの世界も、戦争が終われば良いのに」

パーンドレイクは彼女が異世界の住人であり、世界を越えてキメイラと交際を交わした。そして彼と共に時折彼女の世界へ赴いている事はしっていた。
だが、その世界が戦争中とは知らなかった。
もしも彼女が戦争によって傷つけられてしまったら、そう考えると高揚していた気持ちに冷水を掛けられたように不安になった。
それが表情に現れてしまったのか、レフリはじっとパーンドレイクの顔を見上げた。

「わっちはそう簡単には巻き込まれたりはしない。じゃが、ぬしがそういう表情をしてくれるとやはり雌に生まれてきても良かったの」

「……勘弁してくださいよ」

こっちは真面目なのだが、それを見通した先まで見られているかのような攻撃には最早苦笑を浮かべるしかない。
だが、彼女がそういうならば戦いを避ける方法は確立しているのだろう。それだけがわかっただけでも収穫があったように思える。
ならば、何故戦争にそのような意識が向くのか?
大抵は自分と関係ない種族が争いをしていても無関心でいる事ができるだろう。
竜である彼女は人間を一目置いているものの、少なくとも自分より上の存在とは考えていない。だとしたら――

「わっちの世界はの、ぬしの王様のような楽観的なものでは無いんでありんす」

色々と思考を巡らす脳に、突如彼女の声が飛び込んできた。
フード越しに光る視線を見た瞬間、血の気が引くかと思った。
少なくとも、いつもの温厚な彼女ではない。

「わっちらは、多少ではあるが人間と関わりがある。有能なる少年や少女が否応なしに戦いに巻き込まれ、飢え、寒さと恐怖に震え、孤独のままに死んでゆく。己の存在をも知らぬがままじゃ」

「……、……」

「わっちにはそれを見ている者として、許せないだけじゃ」

その問い掛けに頷く。
彼女は決して出来上がった縁を裏切らない竜であることを、彼女の瞳の眼光は指し示していた。
その由縁は知らないが、きっと彼等に対し何かあったのだろう。
しかし彼女は多くは語らなかったのだった。
posted by クロ at 10:34| 千葉 ☁| Comment(15) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年08月11日

全ての始まりの話

全ては、あの瞬間から始まっていたのかもしれない。
戦争も、インテージも、全てが仕組まれていたとしたら要因は重なり合い一つの結論を導き出す。そして物語が描かれる。
終焉という名の物語。

かちり、かちり。
脳が命令せずとも、本能が恐れていた。身体が震え、骨が軋み、遂行するべき1つの目的を邪魔する。
かちり、かちり。
それは迷いがあるからだ。
これによって失うべき者が居る。そして、やっと掴んだ日だまりを失う事は容易に想像出来た。
しかし。
かちり、かちり。
本当にそれが「俺」が作り出した関係なのか。「俺」が作り出した居場所なのか。
問い掛けられたら返すべき言葉がない。
胸を張ってYESと答えれば俺は俺自身にまた1つ、嘘という名の泥をなすりつける事になるだろう。
かちり、かちり。
俺は、何者だ?
インテージか、呪いを受けた青年か、狙撃兵、ただのクローンか。
……そんなことを考えるのはタブーだ。意味はない。
だが、知りたい。
せめて、何故この世に生を受けたのかを!

「いつまでぐちぐちと自問自答を続けるつもりだい?」
なにもない、その空間に俺……クロは立っていた。
目前には話で聞いてたくらいにしか存在を知らないポケモン。
ブルーの身体と、力強い四肢、立ち姿は凛として隙が無く伝説のポケモンとして相応しい彼は何処か人を見下すかのような視線をこちらへ向けてきた。
北風の化身、とも呼ばれる伝説のポケモン。スイクンに間違いなさそうだ。
彼は若干高圧的な印象でジェシィと名乗った。
「何の用だ」
「冗談はよせよ、俺はお前と戦うつもりは無いって。結果は目に見えてるだろ?」
情報もなにもない相手は警戒が必要なのは当然だが、戦闘に発展させたところでクロの勝利の可能性は0では無いもののそれに限りなく低いものだろう。
ジェシィはシャドーボールを収束させるクロに満足げに頷くと、腰を据えて話そうと言わんばかりにその場に四肢を折った。
だからといって俺まで腰を落としたら殺されはしないが、怪我しそうな結論に至りそうなのでやめておく。
「そうそう。……それで、君がやっちゃったルカリオはどうなったんだっけ」
「今では退院して働いている」
「弟君が居なかったらどうなりそうだった?」
……何でシロまで知ってやがる。
「死んでたか、良くても植物状態……と言っていたな」
「要するに目は覚まさなかった、と。後者は弟君の過小評価だとして、君も弟君が居て良かったじゃないか」
大切な仲間を殺さずにすんで。
刹那の瞬間に放ったリーフブレードは空を切った。いや、バックステップで下がったジェシィの左頬に薄く血が垂れた。
だが会心の一撃をかわされたにも関わらずクロは既にジェシィの鼻先に移動していた。
単純な短距離走ではジェシィに勝ると悟ったクロは冷たいリーフブレードの刃側面を彼の頬へ当てた。
「二度と図に乗った発言をするな」
「……悪かったよ。そういえば、グラティスのインテージでもあることをすっかりと忘れていた」
全然悪びれた様子もないことに腹が立つ。
一緒に居るのも嫌なコイツからは早く解放されたい。
「で、何でスピネットなんだ」
「君の望む結末まで案内するのにルカリオが必要なんだよ」
ジェシィは薄く笑みを浮かべ、代わりのルカリオの名を指し示す。
その返答に、クロは驚きを隠せなかったのだった。
posted by クロ at 09:28| 千葉 🌁| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年07月26日

7月23日深夜

「レシフィールに何があったんだ……?」

「確か彼女の今日の任務は教会への物資輸送だったはずだ。その際に教会を回り込んで背後から奇襲を仕掛けようとした敵の部隊と遭遇し、戦闘になったと考えたら全て納得が行くと思わないかい?」

「まぁ、そりゃそうだけど……」

「戦場では、今ある状態が全てなんだよ。レシフィールはどこかで敵部隊と遭遇し交戦。その後霧へ向かった。とりあえず僕らが知る情報はこれが全てだ」

後の事は姉さんが目を覚ましたら直接話を聞けばいい。
シロは普段の様子とはどこか違う物言いだ。
しかし、話している事に間違いは無い。

「二人とも、今夜はもう遅いし身体を休めなよ。ヒース、ナオキを任せていい?」

「あぁ、構わない……それじゃ、また明日」

「……お休みなさい、シロさん」

「あぁ、お休み」

レシフィールを送り届けたよく言えばシンプルな、悪く言えば古すぎる病棟から出ると夏なのに涼しげな風がナオキの頬を撫でた。
周囲に人工的な照明は無く、本当に真っ暗な世界はアルトマーレとは比べものにならない程の不気味だ。
周囲をキョロキョロと見渡していると、不意に遠くで炎の明かりが見えた。

「不気味か?」

ヒースの言葉に、小さく頷いて。

「アルトマーレとは違うね。夜はこんなに暗くならないから……」

「俺は、もう慣れたが……アルトマーレ?」

「僕らラティオス、ラティアス達が護ると言われている伝説が残る水の都と呼ばれる街だよ」

炎へと確実に歩を向けているヒースは小さく頷いた。

「よかったら、今度案内しようか?本当に綺麗なところなんだ」

「あぁ、その時は頼むよ」

ナオキはヒースが笑ったのを見て、つられて笑みを零した。
気付けば、炎は目前だった。
小さく揺れるその光に照らされるのは、二人の少年と二匹のデンリュウ。それぞれのトレーナーのポケモンなのか、一人と一匹は眠り、一人と一匹は起きていた。

「見張りお疲れさん。代わろうか」

「あぁ、ヒースさん……、……ラティオス?」

さぞかし驚いたように硬直する少年に、ナオキは苦笑を浮かべた。

「彼は敵じゃない、安心しろ」

「は、はぁ……」

「ナオキです。宜しくお願いしますね」

ナオキは少年へ微笑めば、彼も同様に微笑んだ。
どうやら警戒は解いてくれたらしい。
炎の近くへヒースは座り込むと、少年は軽く炎から離れた位置で星空を眺めた後二人へ目を向けた。

「……、……」

ナオキも地面へ横になるが、普段と違う場所のせいか、はたまた眠らずに警戒している少年らの前だからか、それともその両方か。眠れずに居た。
眠らなければ翌日に響くというのは分かっているが、眠れそうにない。
少年はまだ12、3歳だ。アルトマーレでは毎日家族と一緒に過ごし、学校に通っているか、ポケモントレーナーとして旅立つような年頃だ。
彼は、なんで銃なんて持っているんだろう。
クロさんもそういえば銃を持っていた。
わからない。何で同じ年頃の少年なのに。
目を開くと、ナオキはゆっくりと浮かび上がった。
瞳を擦ってから、ナオキを少年が見上げた。

「眠らないと、明日に響きますよ」

「……君も寝てないじゃないか」

「僕は、任務ですから」

気を使っているのか、少年はクスクスと笑った。
その笑みが、逆に心に鉛を放り込まれたように辛くなる。
きっと、いや、絶対に彼だって眠いはずなのに。
言葉を続けようとした時に、少年の瞳が不意に夜空へ向いた。同時にもう一人の少年とデンリュウを起こし、眠っていたヒースも目が覚めたようだ。
何事かと視線を向けると、星の光が所々で遮られている。なにかが飛んでいるらしい。
それも、何十匹も。

「味方だが、どうやら戦闘があったらしい……怪我人を満載している。軍医を起こせ!」

「はいっ!」

少年が銃を片手に走り出すと、デンリュウは二匹揃って広い平野に移動して強い光を発した。
それに気付いたように高度を落とすのは、翼を持つ大きなポケモン達。
呆気に取られていると、兵舎であろう建物からわらわらと子供達が飛び出して来る。
着地した大きなリザードンの背中にたっぷり5、6人は居た血まみれの少年や少女らを支えて下ろすと、下ろした者からまた夜空へと飛び立っていった。

「トリアージ赤の者で、軍医から許しを貰った者だけ中へ!他はまだ待ってろ!」

少年や、ポケモン達が外で治療を施している。
そんな姿を遠目に眺めていて、こんなところで呆然としている場合ではない事にようやく気付いた。
とはいえ、何をすればいい?目の前に呻いている子供やポケモンが大勢居る中で、知識もなにもない僕は……

「ナオキ、しっかりしろ」

「あ、あぁ……」

ヒースの声を聞いて、こくりと頷いても、彼は若干不安そうな表情だった。
とりあえず、赤いタグのついたポケモンを運べば良いという事を聞いた。

実際に現場に入れば、相変わらず何をすれば良いのかわからない。
ぐったりとしているオオタチと、その尻尾を握り締めながら気を失っているのか、動かない少女。
微かに腹が上下しているところを見ると、両方とも生きているらしい。早く運ばなくては。

「待てよ、ナオキ」

両者纏めて運ぼうとしているナオキへ、シロは視線を注いでいた。
彼はオオタチの首に貼付けられているタグを指で示した。

「よく見ろ、そのオオタチは黒だ。運ぶのは女だけにしろ」

「え、でも……まだ生きて」

「いずれ死ぬ。薬も無駄にできないんだよ」

「……、……」

頭を殴られたような衝撃。
そこから、少しだけ記憶が無かった。





気付いたら、ベッドに横になっていた。
額に当てられた氷嚢の冷たさに起きる。

「……、……」

「あ、目が覚めましたか?」

グレイシアが居た。

「ディト、さん……?」

「あ、はいそうです」

頷くディトへ目を向けると、安堵の息を吐いた。
そうか、昨夜のは夢だったんだ。

「昨夜は大きなトリアージがあって、大変でしたよね。ナオキさんが最後に運ばれてきた時は驚きましたよ」

「……昨夜」

「色々と驚かれたと思いますが、初めてだと驚きますよね……ゆっくりと身体を休めて、気が落ち着いたら戻ってくださいとシロさんから」

聞きたいことを逃してしまった。
忙しそうなディトを呼び止めるのもマズイだろうし、そのまま見送ってしまった。

もう一眠りして、外へ出ると無数に残っている血痕が夢では無いことを実感させてくれた。
posted by クロ at 00:43| 千葉 ☁| Comment(1) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年07月24日

呟き

「空間が壊れ始めている、という結論で?」

「あぁ、九分九厘間違いないだろう。 ……本来戦争など続けている場合ではないのだがな」

コールドがため息混じりに呟いた。
クロは毎度の様に長い髪を掻き、わざとらしく後ろへと倒れ込んだ。
地面に大の字になって空を見上げれば、ゆるゆると羊雲が流れて行く。
まるで戦争など知らぬ顔で、時は流れて行く。

「地殻変動、地震、……数えたらキリがない。まぁ、それもトールが神となってからは比較的落ち着いたような気はするが」

「だが、アイツを見殺しにするわけには行かないだろう?」

もっともだ、とコールドは頷いた。
クロはやはり手持ちを大切にするのだな、等と考えていると彼がジロリとこちらを睨んで来る。

「ふん……打開策は見つかったのか?」

「いいや、今の所は何も……俺達に出来ることと言ったら、パルキアを探し出すことくらいだろうな」

それも、己の足で。
コールドの追い撃ちにクロは盛大に溜息を吐いた。
クロは自分の足に自信を持っているが、世界の広さの前には小さな蟻があてもなく狭い草地の餌を探すようなものだろう。
オマケに世界の全てを探した所で、パルキアは複数の世界を司る神だ。
この世界に居るという保障もない。
余りにも非効率な提案にクロは首を左右に振るしかなかった。

「……却下だ」

「初めからやろうなんて考えていないがな……」

コールドも若干の無力さに声のトーンを落とした。

「とにかく、焦っても仕方ないだろう。トール程の器だし、そう簡単に死んだり、暴走することはあるまい」

「……そうだな。俺がトールを信じてやらなきゃな」

上体を起こして、クロは呟いた。
そうとも。そう簡単に死ぬわけがない。

「残る情報網はティオスだけか……」

「アイツ、あぁ見えて結構関わりが多いらしいからな。特に今はジョウトの方の神とコンタクトを取っているらしい」

ジョウトといえば、別の世界にある大陸の地方の名前だ。
ラティオスである彼は時折ホウエンの何処かにあると言われている「南の孤島」と呼ばれる島へ行く。
そこから少し飛べばジョウトと呼ばれる地方に行くことができるらしい。

「どんな神と面会するんだと?」

「仲が良いのは、スイクンだという。名前までは教えてくれなかった」

「……スイクン」

北風の化身と呼ばれる神聖なポケモン。
湖に現れその汚れた水を美しく浄化する力を持つと言われている。

「そりゃ、期待できそうだな?」

クロが期待を込めて呟いた。




「ったく、あのバカ王子は何考えてるんだか」

「バカにつける薬は無いでありんす。ぬしは一度痛い目に遭った方がいい」

ラグスとレフリの散々な言い草に、流石のカルドゥアも肩を竦めていた。
だが、それを怒る事はしようとはしなかった。
キメイラとその王は事実上、我々の忠告を無視し戦争が起きた。
同盟を組んでいても、それを纏める王の実力は先制攻撃をあっさりと許す辺りでたいしたものではないと判断した。
ならば。

「ラグス、レフリ、いい加減にしないか。少しは頭を冷やせ」

「じゃが、父よ……」

「私は黙れと言っている。それから、暫く二人とも外へ出ていろ」

鋭い視線で睨まれ、たじろぐレフリとラグスは互いに顔を見合わせるとすぐに洞窟から外へと向かって行った。
それを見送り、居なくなったのを確認すると洞窟の奥へ軽く呟いた。

「母さん、暫く出掛けようと思う」

返答は無い。

「死ぬことは無いと思うが……レフリのためだ。もう爪を隠し続けて何百年と経つ。この爪を、再び人間相手に振るう時が来るとは思わなかった」

仲間を集め、部隊を結成する。
それでどれだけの人間を葬ったか、彼にはわからない。
およそ何百、何千という命が失われただろう。
竜は恩を忘れない。
だから、レフリを守るためとはいえ自分達を参加させない王の行動には軽くショックすら受けた。
だが、冷静に考えれば彼等は竜の血が混ざっているとはいえ人間の文化に触れてきた者達だ。
考え方も何もかもが違うのかもしれない。
ならば、独断で動けるようにお願いするのが私達なりの礼儀だ。

彼は大きな翼を広げると、空へと舞い上がった。
posted by クロ at 15:10| 千葉 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年07月22日

始まりの1ページ

世界の始まり、何もない空間に1つのタマゴがあった。
それから生まれたアルセウスは世界を創り、見守り続けているという。
名を付けるものは居ない。真っ白な空間――そこに、ヴィクトールは居た。

「まさか、お前のような存在が神になるとは思ってもみなかった」

「俺もそう思います。まさか自分がそのような存在になるとは思いませんでした」

アルセウスは言葉を選ぶヴィクトールの目を見遣る。
世界を創った存在は、あまりにも大きい。
何をされてもおかしくはない。

「パルキア……その存在の後継者として、お前は十分なほどの資格を持ち合わせているだろうよ」

彼は笑う。
神を纏める神が確かに目の前に居た。





この世界の時の流れを基準とするならば、6時32分。
クロはスナイパーライフルの整備を黙々と行っていた。
それを眺めているシロは退屈そうにベッドで仰向けになった。

「こっちはこっちで退屈……」

ため息混じりに呟くシロへ軽く視線を上げる。

「お前、カルテの整理はいいのか?」

「もう終わったー」

「今までの分もか?」

「まぁね……ふぁ」

猫のように丸くなったシロは俺の布団に沈んでしまった。
セキシュに貰った頭の猫耳が時折ひくひくと周囲の気配を察知するために動いているところを見ると、起きては居るようだ。
もっとも、今眠ると夜に眠れなくなる事は本人が1番自覚しているのだろう。寝返りをうって、布団からはみ出た真っ白な、猫の尻尾が俺に構ってほしいかのように横にふらふらと振り子運動を描いていた。

シロは最近までパルキアに拉致されていた。
それは知っているのだが、肝心の記憶が全く無い。
気づいたらシロは戻ってきていて、俺自身が横に寝かされていた。
呪いの効果か何かは知らないが、弾みで色々と後始末を追われるようなことをやらかしてしまったらしい。
眠っている間は手持ちが総動員で始末をしてくれたのだという。
シロはパルキアに捕まっていた間の事を何も話そうとはしなかった。
理由も記憶が無いがために推測することもままならない状態だ。

「よし、これでいい」

ピカピカに磨き上げられたライフルを軽く掲げて、見る。
スコープのズレも、埃も汚れもないライフルは既にクロの身体の一部であり、撃てて当然の状態だ。
その銃先を伸ばし、シロの尻尾を軽く撫でると彼はすぐに反応を返した。

「くすぐったい……」

「構ってほしそうだったからな。丁度整備を終えた所だ」
すぐにシロは起き上がると、伸びをして立ち上がる。
クロもライフルを背負って外へ向かった。



真っ赤に染まった西日が見渡せる崖。
眼下には森が広がり、遠くを竜騎士が操るドラゴンポケモンの群れが綺麗な編隊を作り飛んでいた。
訓練だろうか、等と考えているとシロが近くの木枝を拾い上げた。
拾い上げた枝を軽く彼が撫でると、枯れた筈のそれは再び青々しい葉を揺らしていた。

「……気が向いたんだよ。やりたくてやったわけじゃない」

「やはり、人間に使うのは怖いか?」

シロは軽く俯いていたが、小さく首を左右に振った。

「死と生を簡単に結び付ける程の力は、僕にとっては少々重荷な気がするんだ。……直接、誰かの命を魔法で呼び戻すなんて、医者として認めたくない。でも……」

でも?
クロがシロを見据えて呟いた。

「もしも、それが本当に大切な人ならば、僕は何の躊躇いも無く力を使ってしまうかもしれない」

「医者であることと、誰かを救いたいという気持ちの間での葛藤か?」

「……そういうこと」

シロは少し視線を俯かせた。
彼はこの呪いの力を手に入れた為に、様々な事を捨ててきた。
そこに後悔があるのか、それとも無いのか。それは俺には解らない。
だからこそ、無力な自分が嫌だった。
人やポケモンを救う事を使命として働く軍医は様々な形で生と死に触れる。
シロは両方とも好きではない。
いつしか、彼の性格が変わっていったのは己を守る方法なのだという。
優しくしていると、辛いから。

「純粋に、誰かを救えれば……そう考えてる医者に生まれてきたかったよ」

齢16歳の、学校にも通っていない少年が呟いた。

「……開き直るしか無いだろ」

「……なんで?」

「なんでって……」

なんで?
開き直った先にあるものは何か、クロは解らない。そんなこと、俺が知りたい。

「だってそうじゃないか!生まれたときから死ぬのが決まってるように銃を握るかメスを握るかの二択しかなくて!子供の頃からずっと殴られて、自分のやりたいことは何もできなかった!」

「……シロ」

それが当然だと思っていた。
どんな世界でも、人として生まれればこうなるものだと信じていた。
シロは大きな目に涙を溜めて、腕でそれを拭った。

「……わかっている」

誰に八つ当たりをしても、何も変わらないことくらい。
何も言わずに、クロはシロの頭を撫でた。
世界は不公平なのだ。
posted by クロ at 23:15| 千葉 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年07月17日

予兆〜Side of Rugs〜



月明かりが広大で、深い渓谷を照らし出していた。
此処に名前はない。何故ならば、周囲を覆う霧が力を持たない部外者から渓谷を隔離しその存在を知ることは出来ないようになっているのだ。
地図上に無い渓谷に住むものは、特別な力を持つ竜の一族。

「……」
月光浴は毎日の日課のようなものだ。
俺は若干の夜行性であり、朝は苦手だ。だからこそ夜のうちに様々なことを済ませておく。
翌朝に腹が減らないように眠っている生物を襲うのも、それを殺すのも俺の役目だ。
だがそれだけで一晩が終わるかと思えばそうではない。
自分で言うのも何だが、実力で右に出るものはおよそ数えられるほどの相手しか居ないし、そいつらは名前を知っていて互いに干渉しないほど遠くにいる。だから今ではどうでもいい事だ。
さっさと獲物を捕まえて腹ごしらえすれば今日の俺の仕事は全て終わる。
だが、今日は違う。
「……眠れねぇ」
身を上げれば月に届くほど高く――というのは人間が俺達を見た人間の過大表現だが、まぁ木々を見下ろすほど大きいのは確かだ。
月明かりに照らされて明るいブルーに見える身体をうめつくす鱗は、実際は濃い色。これは親父の血を色濃く受け継いだためだろう。
そんな身体を起こすと、月を見上げた。
なぜか眠れない。その理由は分かっている。
「レフリ……?」
キメイラの妻となった妹の名を呟いた。
本能に刷り込まれた感覚が疼く。
彼女かその周辺が何かあったのは紛れも無い事実だろう。
幸い、毎日は退屈で俺は特にすることはない。
飛び立とうとしたその瞬間だった。
「ラグス、何処へ?」
「……親父」
黒い鱗を持つ竜は紛れも無い俺の父親。
名をガルドゥアという。
「別になんでもねぇ、散歩だよ」
「レフリが気になるのか?」
親父の目が俺を真っすぐに睨んで来る。
言われた事に間違いは無いから、視線を逸らした後で小さく頷いた。
「レフリ、何かあるだろ。親父もわかってんだろ?」
「あぁ勿論わかるとも。……これからあの地では戦争が起こる」
戦争……?
人間どもが起こす、あの下らないどんちゃん騒ぎか。
「詳しくは行ってみないと解らぬが、戦争が起こりそうなのは確かだろう」
「……親父は、どうするんだ?」
「勿論、赴く」
まるで明日の予定を立てるようにピシッと即答するカルドゥア。
理由は簡単だ。
レフリの婚約を認めた時、互いの父親として協力しあおうと交わした握手。
それだけだ。
俺達は信じたものを裏切るような真似はしない。
倒れそうな大木から真っ先に逃げるなど、考える事はしない。
親父と俺は互いに頷くと、翼を大きく広げ飛び立った。

互いの信用を得るために。
posted by クロ at 16:33| 千葉 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年07月06日

森と湖と教会と

大人20人分近い量の荷物をしっかりと縄で縛り上げ、軽くそれを叩いた後で荷台へ上り、荷物運搬用の灰色がかった大きな竜に跨がった少年へ合図をする。
少年はそれに手を振って合図を返し、竜の首から伸びるロープを握ると、それに呼応するように竜が吠えて歩きはじめる。
荷物はしっかりと固定され、揺れに異常がないことを確認するとレシフィールは荷台に座っているヒースへと軽く微笑んだ。
「今までは自分の足で歩いていたが、こういうのも良いな」
「ゆっくりだから?」
「あぁ」
ゴトゴト揺れる荷台からは、平野と遠くに見える森だけが広がっている。
このまま進むと道はやがて森へ入る。そこまで行けば、目的地まではすぐだとレシフィールが告げると、ヒースも軽く微笑んだ。
夏だというのにそれを感じさせない涼しげな気候に目を細めていると、ヒースが爪を撫でながら呟いた。
「目的地は教会ということは知っているが、この世界にはそんなものがあるのか?」
「まぁね、この世界にも色々な考え方の人が居るから……でも、もうそこは捨てられた教会なの」
「ということは、やはりこの戦争のきっかけは宗教関係か?」
人の考えは千差万別。宗教はその代表的なものだ。
ヒースには、この戦争がそのような理由によって行われていると考えるのは無理もないことだ。
だが、答えはノー。レシフィールが小さく首を横に振る。
「実はね、私にもよくわからないの。この戦争が何故行われているのか、いつから行われているのか……」
「いつからもなのか?」
目を丸くするヒースにレシフィールは小さく頷く。
「私の両親も生まれた時から戦争をしていたって言ってたわ。……その前の事は、あまり記録に残されていないみたい」
何十年と続く戦争は世代を超えて爪痕を残す。
俯いたレシフィールの表情に、その傷痕がありありと見えた。
生まれた時から続く戦争を納得することは難しい。
「……すまない」
「ううん、気にしないで。……そうだ、今回の作戦のこと言ってなかったわよね」
レシフィールは懐から薄汚れた地図を取り出し、揺れる荷台の上へ広げた。
「ほう……」
地図は中央に教会がある。周囲は森と湖に囲まれており、その風景をレシフィールが説明すると、その言葉からでもその美しい景色がありありと想像できるのだろう。
ヒースは驚いたように息を零した。
「ヒースの位置はここ……教会の周辺よ」
軽くレシフィールが地図を撫でる。
そこは教会だった。
「今回、教会にはスナイパーがたくさん居るの。ここは絶好の狙撃ポイントだからね」
「つまり、教会に指一本触れさせなければいいわけだ」
「単純に言えば、そうなるわね」
レシフィールは軽く頷き、作戦の詳細を伝えた。
敵は東の森から攻めてくる。
竜騎士は敵を分散させる目的で飛竜をなるべく湖の上へとおびき寄せる。
そうすれば、後は地上の戦闘部隊は正面からの敵に対応するだけとなる。
地上での戦いなら負けない。説明する彼女の目はそう語っていた。
「わかった」
「あとは……そうね、騎士と戦う時は注意してね」
「騎士?」
初めて聞く言葉に、首を傾げるヒース。
「騎士って響きは良いけど、実際のものは違うわ。あんなの、ただの人形よ」
ヒースは黙ってレシフィールを見ていた。
「つまり、恐怖とか恐れとかを抜かれた人間のことよ。……最期の一人まで戦うわ」
「……だから、人形か?」
「そういうこと。堂々と相手してやれば、ヒースなら問題無く倒せると思う」
なぜそうなったのか。騎士の事についてはあまり深く触れたくなかった。
それは必要のない話だし、何よりヒースはその手の話をあまり好きでない事は知っている。
だから、あまり話さなかったのだ。
軽く視線を上げれば、味方の飛竜が背中に荷物を満載にして教会へと向かっていた。
「まだまだ時間はあるし、少し眠るわ。夜は辛くなりそうだしね」
小さく欠伸をしてみせて、荷物に背中を預けると腕を組んで目を閉じる。
ヒースは私を眺めていた。
何かを考えているようだったが、気づいたら深いまどろみの中へ沈んで行ったのだった。



若干重いかな、と考えつつも無理矢理載せてしまった荷物を運びきった竜を感謝の意を込めて軽く撫でて、ゆっくりと休ませる。
荷物は先行していた竜騎士の部下らによって全て運び出され、荷台は空っぽだ。
主な弾丸や食料は運び終え、いよいよ夜がやって来る。
そんな緊張が高まる中でレシフィールは緊張したそぶりも見せずに欠伸を零した。
到着して、ヒースに起こされるまでぐっすりと熟睡してしまったらしい。
その時は恥ずかしさでいっぱいだったものの、すぐに頭を切り替えてヒースに指示を出した。
だから、彼は今ここには居ない。
「おぉ、レシフィール!」
教会へと足を向けた時、大きな声で呼ばれた。
「ガルドゥ?」
「あ?悪いな、耳をやられてて声が聞き取りにくいんだ!大声で話してくれや!」
どすどす、と豪快な足音と過剰な声量に耳を塞ぎたくなるものの、どうにかそれを堪えてガルドゥという名のオーダイルは耳へ大きな手をやって声を聞き取ろうとしている。
「ガルドゥ、久しぶりね!いつこっちへ戻ってきたの!」
「つい2、3日前よ!西の部隊は一通りカタがついたから今度はこっちの援護に来たってワケよ!」
「ということは、湖にはあなたの部隊が!?」
「俺一人でお前の指揮下に怖くて入れん!一人で無理難題を押し付けられて殺されちまうからな!当然湖には仲間が居る!」
もうそれだけを聞いたレシフィールは言葉も忘れてガルドゥへ抱きついた。
あまりの勢いにガルドゥは尻餅をつきかけるも、それを堪えてレシフィールにずらりと並んだ歯を見せて笑った。
彼はその豪快な言葉遣いと、確かな指揮能力、実力は有名だ。
水タイプのポケモンは彼を尊敬するものも多く、彼の指揮するポケモン達は皆志願しての者だという。
最近では若手の育成に多くの時間を割いていた彼も、戦局の悪化に伴って前線へ出てきたのだ。
過去に彼と共に作戦を行ったことのあるレシフィールにとって、これ程嬉しいことはなかった。
「そうだ、ガルドゥに一つお願いがあるの」
「ん、なんだ?」
「あるガブリアスを一緒に行動させたいんだけど……いい?」
「なんだそんなことか!お安いご用だ!」
どん、と胸を叩くガルドゥ。まだ何も事情を話していないのに即決してしまうところが彼らしい。
「しかし、お前が俺に頼むとは何か理由があるんだろ?」
「優秀な指揮官に優秀な兵を預ける事に理由でも?」

ニヤリと笑んだその表情に「そのガブリアスを随分と好んでいるんだな?」という意味合いが含まれていることを、レシフィールは感じた。
彼と一緒に行動するということは、自然と竜騎士であるレシフィールと行動することを意味する。
近くに居れば何かあったときも最悪の状況を回避することができる。
そういった意味でも、ガルドゥにヒースを預けるというのは良いことだと思う。
それに、ヒースは戦い慣れている。彼は自身の判断で動くことができると思う。
ならば、竜騎士である自分の指示は必要ない。
「ならいい。そのガブリアスは俺が預かろう」
「早速会いに行くと良いわ」
「そうだな。んじゃ、また後でな」
「えぇ、幸運を……」
ニィッ、と笑んだガルドゥの大きな背中をレシフィールは見送った。
間もなく戦闘が始まるというのに、冷たい雨が彼女の頬を叩いた。
posted by クロ at 18:17| 千葉 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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